【自分用にチューニングしたら「変態ラケット」と呼ばれてしまった名物店員が語る道具選びのポイント】
ラケット、ストリング、シューズ、ウェア、、、。プレーに関わる影響の大小はあるものの、その選び方はさまざま。デザインやフィーリング、スペックやデータ、選ぶ基準も視点も百人百通りと言える。そんなギア選びのサポートをする販売員の中で、顧客の心をつかんで離さない人がいると聞いて、そのこだわりを聞いた。
今回の取材は、はっきり言ってとてもマニアックな会話。多くの読者、特に始めたばかりの人は「??」と感じるだろう。
しかし、彼の道具選びに関しての考え方は購入者を一番に考えたものだった。
〜名物販売員のポリシー〜彼が勤務するのはスーパースポーツゼビオ東京御茶ノ水本店。
ラケット売場
ストリング売場
シューズ売場
アパレル売場
最新のウイルソンブース72坪の売り場面積にびっしりと陳列されたテニス用品の数は、なんと50ブランド13,000点。記事下部の動画でもその広さがわかる。ここまでの品揃えがある販売店は非常に稀だ。点数の多さと、売り場の面積の広さだけでなく、イベント兼試打スペースまで備え、自分に合ったものをテストしたうえで購入できるのが、この店舗の特徴だ。
8階のイベントスペースでは試打ができるようになっている。「名物販売員」「テニス好きおじさん」と呼ばれている佐藤裕史さんに話を聞いてみた。
――お店の特徴は何ですか?
自分も中学生からテニスを33年プレーしていますが、テニス以外の売場でもそのスポーツを実際にプレーしているスタッフがほとんどです。8階には試打スペース兼イベントスペースがあるので、そこでギアを試していただくこともできます。プレー経験のあるスタッフがお勧めしたものを実際に使って納得して選んでいただけるというのがこのお店の特徴です。
――佐藤さんはWASという資格をもっていると聞きました。
はい。Wilson Advisory Staff という認定資格で今まではテニスコーチしかもっていなかったのです。一般の販売員が知っている情報に加えて、展示会などでメーカー担当者さんに直接お話を聞くことができるので、よりギアの詳しい情報をお客様に伝えることができます。WASがいると、そのお店だけにしかない「しなり」を計測するツールがあったり、WAS限定のキャンペーンも実施することが可能です。
※販売員でWASとして認定されているのは店舗の中で佐藤さんのみ(2019年12月現在)
とは言え、ウイルソンの製品しか売らないという事はありません。
僕の接客の信念として、お客様に合わないものを勧めない。と考えています。ウイルソン以外のものが最適だと思えば、それをお勧めしていますので安心してください(笑)。もちろん、お客様が望んでいることを否定してまで自分の考えを押し付けることはしないです。
初心者の女性のお客様に上級者モデルを販売した事もあります。もちろん使いこなすのは難しいとしっかりお伝えしましたが、「どうしてもデザインが気に入ったのはコレ」とおっしゃっていました。いくら合わないと言われている状況でも、お客様がやりたいことを1番に考えるようにしています。こういったお客様でも、しっかりとお伝えし、ご理解頂いていますから、また自分に合ったものを探しに来てくれるお客様が多いです。
――顧客と話すうえで気にかけていることは?
最初に、何のためにラケットを買いに来ているのか?という事を聞くようにしています。試合に勝てなくてとか、身体の調子が悪くなってとか、いまのプレーがうまくいっていないというタイミングで相談にいらっしゃる方が多いです。具体的に言うと、スピンをかけたい、打ち負けたくないなど。そこから今使っているラケットをお聞きすれば、そのラケットの特徴は大体わかるので、そこからラケット選びがスタートしますね。
「お客様は道具選びで思い違いをしていることが多い」と感じている専門家は多いですが、僕はあながち間違いじゃないと思う事が多いです。お客様の意見で確かに「??」と思う事はありますが、よくよく考えてみると、以前にも同じことを言うお客様がいたり、自分とは違う考え方や感じ方の人がいるんだなーと思うんです。
ラケットだけじゃなくストリングもいろんな特徴があるので難しくて、ウイルソンULTRAは飛ぶと言われていますが、人によっては飛ばないと感じる人もいます。それはそのストリングからきていたり。
まずは顧客の目的を聞く事を大事にしているという。車で例えると、フェラーリに原付のエンジンを載せても、フェラーリの良さを引き出せないですよね。良いラケットを持っていても、ストリングをきちんと選ばないと、全く違うものになってしまいます。極端に言うと、そのコートのサーフェスや、その時の自分の調子でも全然違ってしまう。
スピンはストリングの目が粗い方がかかりやすいと言いますが、例えばスナップバックという言葉があり、縦糸がボールをとらえてたわみ、戻るときにスピンがかかる。だから目が粗い方がたわみやすくスピンがかかる。しかしプロはパワーがあるので、ストリングに引っ掛けてスピンをかけるというより、ボールを潰してスピンをかけます。目が粗いストリングだとつぶれにくくなるので、かかりにくいという事が起こります。
スピンをかけるというシンプルなことでも、ラケットやストリング以外に、こうやって打ち方によっても違ってきます。だから、いつも使っているラケットとストリングの選び方に加えて、8階の試打スペースで実際のプレーを見せてもらうのは、最適なギア選びにとても役立ちます。
〜売れているストリングと選び方のポイント〜
ハイブリッドの可能性について熱い――今のストリングはポリエステルが主流ですがストリング選びのポイントは?
20代までの男性はほとんどがポリを選んでいますね。20年前は種類も少なかったですが、
C・モヤ(スペイン)などルキシロンを使ったプレーヤーが活躍するようになってから変わってきました。
ポリは硬くて飛ばないというイメージでしたが、ラケット自体が良くなってきたので、性能はナチュラルみたいに柔らかく感じるのにポリらしくコントロールが効きやすいという風になっています。ポリの最大のデメリットはテンションがすぐに落ちてしまう事です。1か月で10ポンド落ちることもありますが、今の新製品は2ポンドしか落ちないものもあります。ルキシロンの4Gとか。
ポリに加えて、ナチュラルを入れ、ストリングを2種使ったハイブリットにして、よりスピードも保つという事も可能です。メイン(縦)を硬いポリ、クロス(横)をナチュラルにすれば、切れにくくなるので、長持ちもします。
ハイブリッドはそれこそ数えきれないほどの組み合わせができるので、自分で試していても本当に楽しいです。お店では、ハイブリッドに対応するため、通常は使うはずの余ったストリングを半年間キープしておくこともできますから、ぜひ試してみてほしいです。
オリジナルハイブリッドを選びやすいようにボトルキープならぬ「ストリングキープ」をしている。――今のラケットの主流は?
フェイス面積が100平方インチで、重さが300グラムという黄金スペックといわれるものですね。それこそいろんなスペックのものがあって、極端な例だと、昔はデカラケで115平方インチとか135平方インチというものまであって、トッププレーヤーの
M・セレス(アメリカ)なども使っていました。彼女はバックだけじゃなくフォアも両手打ちで、フェイス面積が大きいものを使っていました。今ではそういうプレーヤーもデカラケもほとんど見ないですね。
各メーカーもこのスペックのものが一番売れています。以前は違うフェイスの大きさやバランスの違いで、特性にも大きく違いが出ていましたが、今は技術が進歩しているので、フレームが厚いのにしなるものだったり、しなるけどすぐに戻るからボールをとらえる時間が短くて、威力も落ちない、CLASHのようなラケットも出てきていますし。
〜お客様からの信頼〜――ところで佐藤さんは今もテニスをしているんですか?
今もテニスは仕事仲間のみならず、お客様とプレーしたり。20人くらいの仲間で。長いお付き合いのお客様だと前職のテニス専門店の頃からですから、もう25年くらいですね。
――25年!!相当な期間、信頼してくれているお客様がいるんですね。しかもお客様が20人も。
やっぱりテニスが好きなので(笑)。
テニスが好きなので、テニスの仕事としてコーチも考えましたが、自分のプレーはとても癖が強くて、、、。コーチの研修を受けていたこともありましたが、癖が強くてほとんど矯正されてしまいました(笑)。
左利きでフルウエスタングリップ(逆コンチネンタルグリップ)。自分のプレーは一般的じゃないので、プレーを伝えるのは向いていないなと。
サーブは、
S・エドバーグ(スウェーデン)とか
M・ラオニッチ(カナダ)みたいな身体を反らすサーブばを打っていたので腰を痛めてしまいました。
――思い入れがあるラケットは何ですか?
フィーリングを重視して選ぶんですが、たぶん誰も知らないんじゃないかと思うのですが、ミズノMS400というラケットですね。そのラケットが好きでレザー巻いて鉛貼って360グラムにしていて、6本くらい使っていました。その重さでバランスが280ミリしかないので、変態ラケットって言われていました。(笑)
しかもフレックスはRAで40から30。(笑)
ラケットの話になると笑顔が止まらない。テニスを始めたときに周りの先輩が使っていたラケットで、初めて親に買ってもらったのが、伊達さんやナブラチロワが使っていたR50。白でとても思い出に残っています。
佐藤さん所有の思い出ラケットMS400取材当日は十分話が聞ける時間を確保していたが、懐かしいテニスラケットと選手の話で盛り上がり、だいぶ時間オーバー。他のスタッフさん曰く、今日は特にマニアックな話題でいつも以上に楽しく話していたとのこと。話をしていたテニス歴30年の筆者ももちろん楽しかったが、テニス経験がほとんどない担当カメラマンにもわかるよう、かみ砕いて話をしていたのが印象的だった。
商品のスペックだけを伝えるのではなく、相手がわかるように話すことが体に染みついているからかもしれない。
20年以上もお客様から支持されていることが良くわかる。
―――今回話を聞いた人―――
佐藤裕史さん。
左利きで昔はフルウエスタングリップだったという癖強めのテニス販売員。
今はイースタングリップ。
好きな選手はエドバーグ。
ゼビオグループではテニス販売員初のWAS(Wilson Advisory Staff)認定者。
マニアックな話になると笑顔が止まらない。
―――佐藤さんがいるお店―――
スーパースポーツゼビオ東京御茶ノ水本店
住所:〒101−0052 東京都千代田区神田小川町3−6
※テニス用品売場A館6階
営業時間:11:00〜20:00(日曜のみ10:30〜19:30)
URL:
https://store.supersports.com/v002Facebook:
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