テニスのグランドスラムである全米オープン(アメリカ/ニューヨーク、ハード)は6日、第10シードの
錦織圭(日本)が第1シードの
N・ジョコビッチ(セルビア)を6-4, 1-6, 7-6 (7-4), 6-3で下し日本人初の決勝進出を果たしたが、その影には元世界ランク2位で現在錦織のコーチに就いている
M・チャン(アメリカ)の力がある事は間違いない。
1989年にわずか17歳の若さで全仏オープンを制したチャン。それは今でもグランドスラム・チャンピオンの最年少記録である。そんなチャンは選手としてもグランドスラムでの勝ち方を知っていたが今となってはコーチとしても錦織を決勝へ導く手腕を発揮している。
チャンは全米オープン中のこの2週間も、錦織の試合には全てコートサイドで観戦していた。鍵を握る場面は手すりに寄りかかり身を乗り出したり、時には飛び上がったり、素晴らしいポイントを取ると握りしめた拳を突き上げたりもしていた。そしてコートサイドから大きな声で錦織を奮起される声援も送っていた。
錦織は「疲れた時やイライラが溜まった時などは、彼(チャン)からのアドバイスは本当に役に立っています。コートサイドからもいつも応援してくれています。」とチャンについてコメントしていた。
1980年代から1990年代にチャンとライバル関係にあり、現在は
R・フェデラー(スイス)のコーチをしている
S・エドバーグ(スウェーデン)も、錦織の試合中の1ポイント1ポイントで、チャンの力の入れ具合の大きさに気付いていた。
エドバーグの事に対してチャンは「ステファン(エドバーグ)が昨日、僕にコメントしていたんだ。彼は僕に“ 君は実際はコートサイドで観戦しているけど、コート上でプレーしているようさ ”って言うんだ。なぜなら錦織の試合への強い思い入れがあるからね。」と語り、錦織への自身の思いも語っていた。
「興奮せずにはいられないし、圭が良いプレーをした時に気持ちが高ぶらないはずがない。圭は人間的にも素晴らしい。本当に熱心に練習をするし、自分のテニスにもとても真剣に臨んでいるんだ。そんな彼がこうして好成績をあげているのを見るのはとても嬉しい事。」とチャンは続けていた。
錦織のエージェントであるオリビエ・ヴァン=リンドンク氏が最初にチャンに錦織をコーチして欲しいと話を持ち掛けたのは、ちょうど一年前、去年の全米オープン中だった。そしてその数ヶ月後、日本で行われたチャリティ・エキシビションの時に錦織は初めてチャンと顔を合わせた。
そして去年の12月に正式にチャンがコーチとして就任する運びとなった。
チャンは初めはパートタイム・コーチとして錦織のチームに参加し、それまでの4年間ずっとフルタイムでコーチをしていたダンテ・ボッティーニも錦織はそのままコーチとしてチームに残していた。
そしてその3人体制での試みはしっかり実を結び始め、今年の5月には日本人男子として初めてトップ10入りする世界ランク9位を記録した。
ボッティーニは「チャンが選手として経験した事を全て錦織へ伝授している。我々は本当に上手く一緒にやって行けているんだ。お互いの良い所を上手く引き出せている。」とチャンとのコンビについて気持ちを明かしていた。
錦織は、チャンはとても厳しいコーチだが試合中の精神面での大きな助けになっていると言う。
一方のチャンは、錦織と身体的に似ているために、大きな選手との戦い方など共通点があると言う。チャンの身長は175cmで錦織は178cmである。
「圭と自分に共通しているのは、同じようなプレースタイルで試合をする事。だから彼に戦い方を伝授するはそれほど難しい事ではないんだ。大きな選手との対戦だったり、ビッグ・サーバーとの戦い方に対するアドバイスもね。」とチャンは自分のコーチとしての役目を把握していた。
台湾からの移民の両親の下でニュージャージー州で生まれたチャン。アジア人として錦織と共通する部分も感じていた。
「文化的に違いもあるが、お互いアジア人だと言う事から似ている所もある。そんな共通点がコミュニケーションを上手く取れる手助けにもなっているんだ。」
現地月曜日に行われる男子シングルス決勝戦で第14シードの
M・チリッチ(クロアチア)と対戦する錦織。もしその試合に勝つと錦織は、アジア出身選手として初めてグランドスラムでトロフィーを掲げる事となる。
その試合へ向けてのアドバイスは?と問われたチャンは「まだ何も伝えてはいない。ただどの試合に勝った後でも同じ事を言い続けているんだ。それは “まだ大会は終わっていない ”とね。」とチャンはしっかり優勝を見据えながら、錦織の集中を切らさないようにしていた。
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