HOME → ニュースTOP → 今日のニュース(一覧) → 今日のニュース(詳細) |
|
(イギリス、ウィンブルドン)
R・フェデラー(スイス)、25歳。史上最強のテニス選手との呼び声が高い彼は、今年のウィンブルドンで5連覇を達成し、B・ボルグ(スウェーデン)が持つ記録に並んだ。
グランドスラム通算優勝回数もボルグと同じ11勝とし、最多優勝記録を持つP・サンプラス(アメリカ)の14勝にあと3勝と迫った。また世界ランク1位の在位記録も、2月26日にJ・コナーズ(アメリカ)の160週連続という記録を抜き去ってから、7月9日付けで180週連続となっている。しかしこのような統計では表現できない、優雅さと威厳といったものをフェデラーは持っている。
例えば、最近テニスのコメンテーターとして絶賛されている元王者のJ・マッケンロー(アメリカ)はどうだっただろうか?四大大会でシングルス7勝、ダブルス9勝、ミックスダブルス1勝をおさめたマッケンローだが、フェデラーとは全く異なるタイプである。選手としては恐らくスポーツ史上最高に感受性の強い若者だったマッケンローは、暴言やマナーの悪さから、その成績以上に『悪童』というイメージも付きまとう。一方、年末最終ランキングで6年連続1位に君臨したサンプラスは、フェデラーやマッケンローとも違うタイプで、その強さとは裏腹な、ある種の退屈さが漂ったことは否定できない。
しかしながら、彼らと同様、伝説への階段を駆け上がるフェデラーには品格と多様性がある。そして、コート全面を使ったオールラウンドなプレーは、テニスを新たな段階へと導いた。
ここで1つの問いかけをしてみたい。フェデラーは本当にテニス史上最強なのか?
異なる時代の選手を比較することは往々にして不毛だ。70年代、80年代は道具がそれほど進歩しておらず、ボールの速度も遅く、それに伴い選手の動きもそれほど速くはなかった。その時代に活躍したボルグの木製ラケットが「弓矢」なら、フェデラーのチタン技術のラケットは差し詰め「自動小銃」と言えるだろう。
確かに、フェデラーの完璧なプレーはテニスというスポーツをまた一歩上の段階にレベルアップさせた。フェデラーの驚異的な強さは他の追随を許さず、得意とするサーフェス(芝・ハードコート)での試合結果は容易に予測できる。簡単に言ってしまえば、フェデラーは現在のテニス界で最も優雅で良いフットワークを持つ選手である。また精神的にもこれほど強く冷静な選手はおらず、パニックに陥っている様子を見せたこともない。
しかも、フェデラーはゴルフ界で言えばタイガー・ウッズのような人物で、マナーは素晴らしく、下位の選手の手本となっている。成績的にも申し分なく、過去3年で2度、グランドスラムで3勝を飾り、スポーツ界のアカデミー賞と言われるローレウス・スポーツ賞を2度も受賞している。スポーツ界で初めて1000億円級の長者となったウッズほどフェデラーには資産はないと考えられるが、ジャック・ニコラスのメジャー18勝に追いつこうとしているウッズ同様、フェデラーがサンプラスの記録に追いつこうとする姿は魅力的である。
一方のボルグが偉大な選手と称される1つの理由が、彼がウィンブルドンで5連覇を達成したのみならず、全仏で6度優勝していることである。ボルグはボールが高く弾むアメリカのハードコートで苦労したのは事実で、全米決勝では4度敗れている。しかし芝とクレーでの強さはボルグの偉大さを示すものである。
フェデラーの業績に傷があるとすれば、まだ全仏で優勝がないことだろう。過去2年連続でクレー王者R・ナダル(スペイン)に決勝で敗れ、生涯グランドスラム達成をはばまれている。サンプラスも同様に全仏での優勝がなく、わずか1度の準決勝進出が最高成績だった。しかし過去は芝とクレーの両方で優勝している選手もいる。R・レーバー(オーストラリア)、A・アガシ(アメリカ)、そしてボルグである。
フェデラーも恐らくそのうち優勝するだろうが、それまではフェデラーの記録は完全なものとならない。しかしそれを除けば、フェデラーはボルグの全英5連覇に追いつき、またサンプラスの持つ全英7勝の記録に近づいている。
フェデラーが史上最高の選手かどうかという問いの答えがでるのはまだ先のことかもしれない。しかし、その過程でフェデラーの完璧さが生み出すテニス界の向上、そしてナダル、N・ジョコビッチ(セルビア)、R・ガスケ(フランス)、A・マレー(英国)らの若手の台頭が織り成す模倣と追随が、彼の最大の業績と言ってもいいかも知れない。
© 2011 Fubic Corporation. All Rights Reserved.