今季最後のグランドスラムである全米オープン(アメリカ/ニューヨーク、ハード)は、男子シングルスは
M・チリッチ(クロアチア)の優勝で幕を閉じた。決勝戦で敗れはしたものの
錦織圭(日本)もタイトル獲得に大きく近づいた事も事実で、新しい時代の幕開けを感じさせた。
チリッチのこの15日間の戦いは、有名なトップ選手以外のどの選手もグランドスラムでの優勝が可能だと言う事を証明出来たと本人も願っている。
「ツアーで戦っている他の選手達を奮い立たせる事が出来たと感じている。一生懸命練習しているのにモチベーションを失ってしまったり、頑張れなくなっていたり、自分が成功を収められないのではと思っている選手達にね。」と語るのは自身初のグランドスラム優勝を成し遂げた25歳のチリッチ。
「他の選手達も今回のような自分が成し遂げた事が出来たとしたら、もっと強い気持ちになれると思う。この結果はどこからともなくやって来たんだからね。」と続けた。
大会エントリー時に世界ランク16位だったチリッチ。第14シードとして臨んだこの大会で、決勝戦で同ランク11位で第10シードの錦織を6-3, 6-3, 6-3のストレートで下しての優勝は、10年以上ぶりとなるトップ10外の選手の優勝となった。今大会の結果でチリッチは自己最高位に並ぶ世界ランク9位へ、錦織は自己最高位を更新する8位へと浮上した。
チリッチの優勝は、祖国クロアチア人として、現在彼のコーチをしている
G・イバニセビッチ(クロアチア)が2001年のウィンブルドンを制して以来の事となった。
チリッチは決勝までの3試合で10セットを勝ち抜いて来たが、その全ての選手との過去の対戦成績では19勝5敗と大きく負け越していた。4回戦では
G・シモン(フランス)にフルセットで、準々決勝では
T・ベルディヒ(チェコ共和国)を、そして準決勝では
R・フェデラー(スイス)をいずれもストレートで下した。そして迎えた決勝戦でも、これまで2勝5敗だった錦織をストレートで倒す快進撃を披露した。
コーチのイバニセビッチは「彼(チリッチ)の頭の中で何かのスイッチが入ったんだと思う。ベルディヒ戦やフェデラー戦は、まさにテニスの芸術だった。」と教え子のプレーを称賛していた。
日本出身の錦織は、アジア出身選手として初めてのグランドスラム・チャンピオンにあと一歩だった。その夢は叶わなかったが、24歳の錦織は3人のトップ5シードを下す最高のテニスを見せ、近い将来グランドスラムでの優勝の夢を実現する力がある事も証明していた。
錦織は4回戦で第5シードの
M・ラオニチ(カナダ)、準々決勝では全豪オープン覇者で第3シードの
S・ワウリンカ(スイス)、準決勝ではこれまで4年連続で決勝進出を果たしてきた第1シードの
N・ジョコビッチ(セルビア)を倒していた。
「今日は優勝トロフィーが取れなくて申し訳ないです。でも、次は必ず。」と錦織は、試合後のインタビューで優勝への強い気持ちを語っていた
優勝したチリッチは、去年はドーピング検査で禁止薬物の興奮剤が検出され厳しい処分が下されていた。その薬物は薬局で購入したブドウ糖のタブレットに入っていた物で、故意に摂取した物ではない事が認められて当初9カ月と言い渡されていたが、4カ月の出場停止処分へと軽減された。しかしそのために去年の全米オープンは出場出来なかった。
彼はそんな辛い時間を費やしたが、その間コーチのイバニセビッチと共に激しい練習を積み、そのことで自身がかなりタフになれたとも実感していた。
「ただ、コートに立てる事を楽しむようにしているし、コートにいるどの瞬間も楽しんでいるんだ。そう考えてられる事で、かなりリラックスも出来ている。」とチリッチは、復帰後の変化を語っていた。
今回の決勝戦は、2005年の全豪オープン以来となるトップ4がいない決勝となった。ここ数年を男子テニス界を牽引して来たジョコビッチ、フェデラー、
R・ナダル(スペイン)、
A・マレー(英国)の4選手。ナダルは今回、右手首の怪我のために全米オープンを欠場していた。
そしてジョコビッチ、フェデラー、ナダルは、ここまでの38回のグランドスラム中34回の優勝を分け合っていた。そして残る4回中2回はマレーが優勝していた。来年1月に行われる全豪オープンでは、そのトップ4がどのような活躍を見せてくれるかにも興味が注がれる。
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