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Vol.6 怒涛の連続写真~サーブ編 下巻

テイクバックのバリエーション

大きく回すことは威力に関係しない

ここからは、良いスウィングをするためのテイクバックについて、簡単に解説していこう。サーブのテイクバックで重要なのは、最終的にいかに良い形を作るかということであり、そこまでの過程はあまり重要ではない。昔は、「腕・ラケットをできるだけ大きく回したほうが良い」とよく言われたが、現実にはそれが威力に結びつくわけではない。

それよりも威力に関係するという意味で大事なのは、肘をどう引くか、すなわちどうやって肘を良いポジション、良い形(写真右参照)にもっていくかという部分だ。そのためには、人それぞれやりやすい引き方があり、プロの世界でもさまざまな個性的なテイクバックが存在する。ただ、その中でも比較的多くのプレイヤーが行なっている引き方があるので、自分に合ったテイクバックを探す場合は、まずはそこからトライしてみることをお勧めしたい。

あとは、全体の動作がスムーズに滞りなく流れることが大切で、腕を上げたり膝を曲げたりした状態で待ち時間を作らないよう、リズムやトスの高さを調整することも重要だ。

イバニセビッチの男子に多いタイプのテイクバック
このように先にトスを上げて、利き腕のほうは後から肘先行で引き上げていくようなテイクバックは、男子プロのサーブで多く見られ、肘のポジションを良くしやすいので、お勧めしている。多少腕力は必要だが、今はラケットが軽いので、男性ならほとんど問題ないはずだ。

近年増えてきた派生型

前項で肘の引き方がポイントだと解説したが、近年のプロの世界ではそれを裏づけるような個性的なテイクバックを行なう選手が増えてきた。

その例として、ここではロディックを紹介しているが、ポイントは右手(利き手)の動きを小さくしながらも、肘だけはしっかり引けるような形になっていることだ。見た目の印象としてはテイクバックが小さくなっているが、それで威力が落ちているわけではない。肘が良い形で引けているので、威力の面でマイナスにはなっていないのだ。

だとすると逆に、小さな動きのテイクバックのほうがトスを低くすることができ、また無駄な動きがない分変なクセがつきにくく、安定させやすいと言える。野球のピッチャーで言えば、セットポジションからの投球のようなものだ。実際、男子のプロでは、ロディックのようなテイクバックが増えている。ある程度腕力がある男性で、テイクバックがぎくしゃくしたり、タイミングやコーディネーションで苦労したりしている人には、試してみる価値が十分にあると言えるだろう。

ロディックの変則的だが合理的なテイクバック
トスアップと同時に身体の前からバンザイするように右手を上げ始め、肩の高さを越えた後は、右肘を背中側に引いている。見た目は変則的だが、速いサーブを打つには理にかなったテイクバックだ。ただし、高いトスだとリズムが合わないので、トスはなるべく低めにしたほうが良い。

コースの打ち分けのイメージ

まったく同じ球種でワイドに打ち分ける必要はない

サーブのコースを左右に打ち分けるとき、初めから打つ方向を向いていたり、スウィングが明らかに違っていたりすれば、相手に簡単にコースを読まれて、効果が半減してしまう。そのため、できるだけ同じ構えから、途中までは同じスウィングで、左右に打ち分けられるようにしたいところだ。

そう考えると、まったく同じ球種でワイドに打ち分けるのは、なかなかむずかしくなる。フラットで両サイドのコーナーにビシッと打ち分けられれば理想だが、プロでもなかなかそううまくはいかないし、アマチュアではそうしなくても十分に通用するはずだ。

そのため、ここでは最低限できなくてはいけない打ち分けを以下に列記する(以下はすべて右利きの場合)。
1:スピン(気味)でバック(右方向)狙い
スピン系が主体の人なら絶対に必要。スライス系の人でも少しスピン気味にして打つ
2:フラット(気味)でバック(右方向)狙い
完全なフラットでなくても良いが、速いサーブでバック側のコーナーを狙えるように
3:スライス(気味)でフォア(左方向)狙い
スライス系の人なら外に切れていくサーブは必須。スピン系の人でもスライス気味の回転にして狙う

またそれ以外に、わざとレシーバーの身体を狙うサーブを身につけるとバリエーションが広がる。スライスが得意な人なら、カーブさせてバック側から相手の身体にくいこませるサーブ、スピンサーブが得意な人なら、相手の身体(顔)に向かってキックするようなサーブを打てるようになりたい。

さらに、技術的には少しむずかしくなるが、フラットでフォア側のコーナーに打てると、大きな武器になる。とくにアドサイドからセンターにドンと打てると、狙ってエースが取れるようになる。
鈴木貴男のデュースサイドからのサイドへのファーストサーブ
デュースサイドからスライスでサイドに切れるサーブを打った場面。インパクトで斜めの面でボールをとらえ、右方向(向かって左)に振り抜くという動きを、目指すべきイメージとして頭の中にインプットしておきたい。このコースへのサーブは、鈴木貴男のようなサーブ&ボレーヤーには必須の技術だ。

ファーストとセカンドの打ち分け

基本的にはセカンドを基準に考える

今回の最後は、ファーストサーブとセカンドサーブの打ち分けについて考えてみよう。この問題はプレイスタイルや相手のリターン力などによって左右されるので、さまざまな考え方があるが、基本的にはファーストを基準にするのではなく、セカンドを基準に考えるようにしたい。たとえば、セカンドが弱くて相手に攻撃されてしまう場合は、ファーストでなるべく確率の高い打ち方をしたほうが良いし、逆にセカンドがしっかりしていれば、ファーストでは思いきって攻撃的に打てる。

ただし、ファーストとセカンドの違いは、なるべく少ないほうが望ましい。同じような球質で、回転の量や当たりの強さを少し変えるだけで打ち分けられるほうが、フォームが安定するし、迷いが生まれにくくミスも減らしやすいからだ。ファーストが完全なフラットで、セカンドが大きく弾むスピンというのが理想のようにも思えるが、それでどちらも安定させるのは、プロレベルの話だ。
また、セカンドで相手のバックに打てるという技術は絶対に必要なので、プレッシャーがかかった場面でも、バックを狙えることを目標にしていきたい。

そして、もうひとつ忘れてはならないのは、セカンドではとにかくスピンを多くかければ良いというわけではないこと。スピンサーブで回転を多くすると、その分ミスの許容幅は広がるが、逆に深さや高さのコントロールがしにくくなり、ブレも出やすくなるので(むしろスライスのほうが高さや深さは安定させやすい)コントロールを損なわない程度の回転量を自分なりに見つけるようにしたい。
クエルテンのセンターへのセカンドサーブ
相手コートで高くバウンドさせて攻撃させない(前で打たせない)という狙いのサーブであり、上のファーストと比べると、はっきりとスウィングも球質も変えている。戦略的には、その後のラリーでじっくり勝負しようという考え方だ。

(テニスジャーナル 2003年1月号)
© SKI Journal Publisher Inc.

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