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スポーツで成功するために、強靭な精神力がどれほど大事なのだろうか。今年のUSオープンテニスで男女シングルスを制し、栄冠を手にした世界ランク1位のR・フェデラー(スイス)とJ・エナン(ベルギー)を見れば、その理由が分かるかもしれない。
今年最後のグランドスラム大会で優勝したフェデラーとエナンは、技術面だけでなく、精神面でも他のテニス選手より優れていることが証明された。
四大大会11勝でUSオープンに臨んだフェデラーは、10大会連続のグランドスラム決勝進出がかかっているからといって、気負いがあったわけではない。四大大会6勝のエナンもそうだ。強敵が揃ったトップハーフのドローに入り、2週目にはウィリアムズ姉妹2人との対戦という初めての試練が控えていたが、決して弱気にはならなかった。
今大会、フェデラーは3回戦でアメリカの若手、長身のJ・アイズナー(アメリカ)と対戦、第1セットでビッグサーブの嵐に見舞われたが、それをやり過ごして勝ち進んだ。4回戦のF・ロペス(スペイン)戦でも第2セット途中まで相手サーブに苦しんだものの、自らのペースを掴むやいなや、パニックに陥ることなく、容赦なくロペスを退けた。
フェデラーは、準々決勝以降の試合で全てストレート勝ちしているが、そのスコアからはフェデラーが敗れていたかもしれないということは読み取れない。A・ロディック(アメリカ)、N・ダビデンコ(ロシア)、N・ジョコビッチ(セルビア)戦はいずれも接戦だったが、要所ではフェデラーがこの3選手より勝っていた。
「最後の3試合では1セットも落とさなかったけど、かなりの接戦だったと思う。それはたぶん経験の差と、自分のプレーに自信を持っていたおかげだと思う。彼らはチャンスを逃したんだ。振り返ってみれば、ロディック、ダビデンコ、ジョコビッチをストレートで倒せたことは大変なことだね。」とフェデラーは振り返る。
フェデラーの自信は自己認識と過去の経験に基づいたものだ。
「ジョコビッチくらいの年齢では、僕は今とは全く違ったプレースタイルだった。チップ&チャージや、サーブ&ボレーをよくやったよ。憧れの選手だったベッカーやエドバーグ、サンプラスを真似してね。彼らは皆そうしていたから、僕も同じようにしなくちゃと思っていたんだ。少ししてからは、新しいストリングの技術が生まれてきて、リターンやパッシングが容易に打てるようになってきた。ある意味、(ネット際で)攻撃するのが難しくなってきた。でも、その経験は僕を助けてくれている。僕は攻撃的なゲームを組み立てられるし、鋭いボレーも打てる。必要なときにこういう選択肢があるんだ。若いときにボレーを沢山やったから良かったよ。チャンスをものにしたといえるね。おそらく、その技術をものにするのに沢山の試合をこなしたけれど、その見返りはちゃんと得ている。」と王者は語った。
今年大躍進を果たし、このUSオープンで初の四大大会決勝を果たしたジョコビッチは、準優勝に終わったものの、この経験から沢山のものを学んでいくだろう。彼もまたフェデラーの要所でのメンタル・タフネスを認識しており、それが今回の勝負を分けたものだと語る。
「彼(フェデラー)と対戦する選手は、否応なく『世界最高の選手のフェデラーと戦っている』と思ってしまうから、試合に入る時点でフェデラーが優位に立っているんだ。だから、彼は少しアドバンテージを持っていると言える。でも、もちろん彼の立場に立ってみれば、世界1位の選手として、どんな大会でも、どんなサーフェスでも、いいプレーをすると、全ての選手が思っている。これは彼にとって多大なプレッシャーになっていると思うよ。」
「それでも、彼のプレッシャーに対する素早い処理は凄いと思うよ。その上、彼は信じられないようなテニスをする。そのために彼は沢山練習してきた。すぐにそうなるわけではないから、辛抱強くやってきたんだ。時間は価値、時間とは経験。彼は僕よりも経験を積んでいる。少なくとも、僕より5、6年は長く生きているんだ。」と、フェデラーの精神的な強さとそれを支える練習量を称えた。
また、ジョコビッチは現代テニスで最も成功した2人を比較している。
「僕の人生のアイドルはサンプラスなんだ。子供の頃は彼のプレーを見てきた。僕とサンプラスのゲームやプレー、考え方は違うけれども、彼のプレーを尊敬している。サンプラスとフェデラーには共通点があると思う。重要な場面での精神的な強さはずば抜けているし、ベストなプレーをする。氷のように冷たい表情でショットを打ってくるんだ。これこそが、彼らが最高の選手にいる理由だと僕は思うよ。」
フェデラーは3年連続で四大大会3勝を収めた初めての選手となり、サンプラスの四大大会14勝という記録にも後2つと迫った。この時点で、来年フェデラーが記録を更新することに驚く人は少ないだろう。年末にアジアとニューヨークで行われるエキシビションマッチで対戦するフェデラーとサンプラスが、この話題で盛り上がるのも容易に予想される。
一方エナンは、M・コート(オーストラリア)が持つ四大大会24勝には程遠いものの、今回のUSオープン優勝が、テニス人生で最も重要なものになるかもしれないと語っている。エナンは1セットも落とさずにUSオープンの栄冠を勝ち取ったことだけでなく、ウィリアムズ姉妹を両方倒してグランドスラムを制した初めての選手となった。
「最後の数試合のプレーの質は本当に良かったわ。タフなドローだったし、誰に対してでもなく、自分自身に対して証明するものが沢山あったから、本当にいい気分よ。2週間を通して安定したプレーをして、落ち着いて、リラックスしていたのも良かった。前哨戦のトロントと今大会で1セットも落としていないし、自分のやったことに誇りを感じているわ。」
ここで、エナンがどのように今シーズンを始めたかを思い返してみよう。全豪オープンを離婚で欠場。その後、疎遠になっていた家族との縁を取り戻し、その直後に全仏オープンでも4度目の栄冠を勝ち取った。家族との復縁が良い精神状態をもたらし、試合にもプラスの影響を及ぼしたのは間違いないだろう。
「凄く幸せよ。家族を取り戻したことが大きな助けになっているわ。人生に家族が戻ってきたの。彼らのサポートは大きいわ。心安らかに感じているし、人とけんかするのが嫌いだから、とても大事な気持ちね。平穏な心境が好きなの。今はその状態。」と、現在の状況をエナンは話す。「でも、私はプロフェッショナルだから、序盤に最悪な出だしだろうと、その先どうなるかなんて分からないし、戦い続けていた。強くなって帰ってきたことは素晴らしいことね。」
コーチ無しで好成績を残しているフェデラーとは違って、エナンは14歳のときからカルロス・ロドリゲスに師事してきた。彼は今季もエナンを支え続けてきた。
「彼(ロドリゲス)は信じられないほどのサポートをしてくれたわ。何事も善悪の判断をしないんだけど、そばにいてくれた。彼の家族と一緒にね。私達はともに戦ったわ。私にはそれが必要だったのを彼は分かっていたの。今年彼はずっと背中を押し続けてくれたわ。私に対して厳しくもあったんだけど、大きな役割を担っていてくれたわ。彼も、私の人生に兄弟が戻ってきてくれたことを喜んでくれた。それも、全仏オープン優勝を彼らに捧げたことを誇りに思ってくれた。私達2人に素晴らしい1年になったわ。」と語るエナンが、USオープン優勝後、スタンドで見守っていたロドリゲス氏のもとに駆け寄り、抱き合ったのは記憶に新しい。
このように心技体で世界最高のテニス選手となっている両者だが、ともにまだ獲得していないグランドスラムタイトルがある。フェデラーは全仏オープン、エナンはウィンブルドンでまだ勝っていない。彼らのこれまでの成功がより完璧になるために、彼らの究極の目標はこのタイトル獲得となるだろう。
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