3月初旬、まさに非常事態と言える状況により、テニス界に混乱が生じた。中東情勢の緊迫化により、男子テニスのフジャイラ・オープン(アラブ首長国連邦/フジャイラ、ハード、ATPチャレンジャー)が中止となり、選手ら関係者は中東からの避難に奔走した。
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中東情勢が不安定な中、フジャイラ オープンは2日に開幕。しかし、3日には試合中に警報が鳴り試合が中断。会場近郊の石油施設に無人機の破片が落下し火災が発生したとされ、ほどなくして大会は中止となった。
同大会に出場していた日本人選手を含めた選手ら関係者はその後、中東からの避難を目指すことに。しかし、フライトのキャンセルが相次ぐなど、事態は混迷を極めた。
その中で、男子プロテニス協会のATPは選手らが中東を脱出できるよう、マスカット(オマーン)発ミラノ(イタリア)行きのチャーター便を手配。しかし、当初このチャーター便の費用が1人5,000ユーロ(約91万円)とされており、プロテニス選手協会のPTPAが反発するなど波紋を呼んだ。
これを受け、その後ATPは方針を転換。チャーター便の費用を負担すると発表した。
しかし、イタリアからの渡航費は自費となっていたことなどから、日本人選手らはチャーター便を使用せず自費での避難を選択。その後、各自のルートで日本に無事帰国している。
今回の事態で痛感したのが、テニスが個人競技であるがゆえの支援の難しさだ。
これが団体競技であったらどうだっただろうか。おそらくチームや競技団体が選手ら関係者の避難方法の確保に動き、選手と関係者の避難を先導して支援しただろう。全員をまとめて帰国させるためのチャーター便の手配までする可能性もある。
しかし、テニスは個人競技。選手によって次の目的地は異なり、関係者をまとめて1つのチャーター便で各地に送り届けることは現実的ではない。
では、経済的支援という側面ではどうだろうか。いずれかの団体が目的地までに要する費用を支援するという形だ。ここで問題となるのがその「団体」がどこなのかということ。大会を主催しているATPなのか、選手が所属している国の競技団体なのか、選手が個別に契約している所属先なのか、はたまた開催国の競技団体や個別の大会なのか。大会となると、選手はこの大会の前後の大会にも出場を予定しているケースもあり、それが国際テニス連盟のITF主催の大会の場合もある。
では仮に大会を主催したATPに責任があり、ATPが経済的支援をするとしよう。ATPは誰にいくらの経済的支援をするべきか。まず「誰に」だが、選手によって遠征に帯同させている人数は異なる。帯同させているコーチやトレーナーの分もATPが負担すべきなのか、パートナーや友人はどうなるだろうか。
そして「いくら」だが、前述の通りテニスの場合、選手の次の行き先は様々。選手によって渡航費が異なるのは言うまでもない。さらに、根本論として経済的支援はそもそも適切なのか。選手は当初より次の目的地への渡航費は予算に入れている。それをATPが負担するのが適切なのかは議論の余地がある。無料にすれば、次の目的地まで選手は渡航費が浮く形となり、それがコーチなどを帯同させている選手であれば尚更だ。
では、本来かかるはずだった費用よりも多くなってしまった差額をATPが負担するというのが理論としては成り立つが、選手によっては勝ち上がり次第で移動日が異なり航空券を取っていない場合もあるため、何をもって差額を証明できるのだろうか。また、膨大な事務作業を要することも想像に難くない。他方、一括でいくらと決めるのも、当然選手によって損得が出て不公平だろう。
さらに、選手によっては個人で契約しているスポンサーが支援を申し出ている場合もある。そのような選手には団体からの経済的支援は必要ないのか。それは不公平ではないのか、議論は尽きない。
今回のような事態において、最も必要なのは移動手段の確保だったように思う。中東地域からの脱出が至上命題な状況で、多くのフライトが不確実となるなか移動するすべがなければどうしようもないからだ。
その意味では、ATPが大会の中止を発表すると同時に、チャーター便を手配したことは一定の評価ができる。
もちろん、全ての選手をカバーすることはできず、イタリア行きという限られたものになってしまったが、最大のミッションとなる中東脱出というすべは迅速に用意したのだ。
他方、当初このチャーター便が有料だったことにPTPAが反発するなど波紋も呼んだ。上記の公平性の観点から費用の設定には一定の妥当性もあるが、結果としては有料に反対する主張が通る形となり、その後チャーター便の費用はATPが負担した。
さらに、前述の通り大会に参加していた日本人選手らはイタリアを経由することによる経済的な側面などを考慮し、チャーター便を使用せず自費での避難を選択しており、課題は残った。
チャーター便の手配、費用のあり方、行き先など、今回のような非常時におけるATPの対応が適切だったのかは、今後検証する必要があるだろう。
なお、ATPは上記とは別に、今回のような事態を開幕前に予期できたか、同大会を開催したことは適切だったのかも検討する必要がある。
ここまでいかに難しい状況だったかを記したが、大前提として、これらの議論は人命に優先しない。一度全ての議論を置き去り、全員の全ての費用を一旦ATPか他のどこかが負担し、安全な状況となってから上記の議論をすればいいというのはもっともな話だ。
しかし今回、事実としてこのように個人競技という特殊さゆえに、いずれの団体も全てをやり切る胆力がなかったというのが実態だろう。
繰り返しになるが、これがチーム競技であれば誰が何をするべきかは基本的には明快だ。選手たちの所属チームや、ナショナルチームであれば同国の競技団体が、関係者全員の帰国に向け全力を注げばよいのだ。
今回の一件をもとに、非常事態における個人競技の選手に対する支援の在り方を検討すべきだろう。
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