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『ラウンドロビン=総当たり戦』。今年、男子ATPツアーが従来のトーナメント形式に代えて試験的に数大会で導入したこの形式だが、途中で実施が見送られるなど課題と反省を残すものとなった。
ツアー最終戦で馴染みのあるラウンドロビン形式だが、今回男子ツアーで採用された形式は、まずノーシード勢ら16人が予選を行い、そこで勝った8人が上位の16人と合流。3人ずつ8つのグループに分かれラウンドロビンを行い、各グループ1位の8人がベスト8として準々決勝に進出するというものだった。当初インターナショナル・シリーズの11大会で採用が予定されていたが、実際に実施されたのは5大会だった。
このうち最後に行われたテニス・チャンネル・オープンのラウンドロビンにおいて、第1シードのJ・ブレーク(アメリカ)とE・コロレフ(ロシア)のどちらがベスト8へ進むかについて、決定が二転三転するというトラブルが発生。ブレークは、ラウンドロビン初戦でコロレフに敗れた後、2戦目でJ・M・デル=ポトロ(アルゼンチン)と対戦し、そこで失ゲーム5以下のストレート勝ちを収めればベスト8進出ができることになっていた。しかし、デル・ポトロが呼吸困難に陥り、途中棄権(ブレークの6-1, 3-1)。結局3人が1勝1敗で並んだが、デル=ポトロは2試合を完了したと見なされず、ルール上は残る2選手の直接対決の勝者、つまりコロレフが8強に進むこととされた。
しかし、ATPの最高経営責任者のE・ドビエルス氏は、「ルール説明が不十分だったが、今回(デル=ポトロ戦)はブレークが明らかに勝っていたと思われる試合内容だったため、コロレフではなく、ブレークがベスト8に進出する。」との発表。これには当のコロレフだけでなく、その他の選手も大抗議。すると、ATPは翌日に決定を覆し、「混乱を招く発表を行ったことを陳謝する。」と、コロレフが8強入りすることを再度表明した。
微妙な状況におけるルールが複雑だとの批判もあるが、それ以上にルールを曲げてまで『人気選手』を優遇しようとしたATPへの反発も大きかった。同胞の先輩でもあるM・サフィン(ロシア)は、「言語道断。特に、コロレフのような若手が、ATP幹部の決定で一方的に権利をそがれるのは許せない。」と抗議。L・ヒューイット(オーストラリア)も、デル・ポトロが棄権すればコロレフの8強進出が決まることを理解していたと言い、「ルールを大会途中に変更するなんて、あってはならないこと。」と激怒した。
また、従来のトーナメント形式だと1回戦に敗れればそこまでだったが、ラウンドロビン形式ではそれでもまだベスト8進出の可能性が残るということに、選手の中では早々から疑問の声も上がっていた。
R・フェデラー(スイス)は、「トーナメント形式こそテニスにふさわしいスタイル。いい日もあれば悪い日もある。悪い日に当たればそれまで。それがテニスだ。『今日は負けても大丈夫。』という心構えで臨んで面白いプレーが披露できるだろうか?」とコメント。A・マレー(英国)も「恩恵を受けるのは上位選手。初戦で負けても優勝できるなら、初日にギアを上げる必要もなくなる。例えばフェデラーがラウンドロビンで負けたらどう思う?これまでは彼が負けるのは一大事だったけど、ラウンドロビンだとトップ選手が負けることの重大さが失われる。」と自身のウェブサイトで語っていた。
ドビエルス氏は、この一件の後、「新たな試みを行うには失敗が付き物。今回は問題が発生したが、大事なのはそれを教訓として今後に活かすことだ。この形式に批判が多いのは承知しているが、一方でファンや大会開催者の多くが歓迎しているのも事実。ルールについてもあらゆる状況を想定して策定したが、実際に何が起こるか、それにどう対応するかは、やってみないとわからない点もある。それが実験というものだ。」と弁明していた。
しかし、その後外部を含めた調査を行い、ATPは正式に採用を見送ることを決定。ドビエルスは、「意見ではなく、事実に基づいた決定をした。テニスという競技を成長させるために試行錯誤することを話し合ってきたが、ファンの視点を持って、全ての利害関係者、特に選手や大会の意見を活かして決めた。」と表明した。「上手くいったものもあれば、そうでないものもある。今回の実験で学ぶことは多かった。今度も男子プロテニスの繁栄に役立つ方法を模索していく。」
ATPによると、今回の試験採用で浮き彫りになった課題は次の4つ。(1)32選手が入り組んでおり、混乱を招いたこと、(2)ラウンドロビンから誰が勝ち抜けるかを決めるのが複雑だったこと、(3)メディアの報道にも支障をきたし、ファンも試合結果を理解しづらかったこと、(4)消化試合や棄権があった場合、上位進出を自分の手で決められないという選手の一番関心を示す部分のルールが文書化されていなかったこと。
一方で、導入の目的だった『地元選手や人気選手の試合観戦の機会を増やすこと』、『目玉選手を大会を通じて目立たせること』、『テレビ放映スケジュールを容易にし、より促進させること』は、一定の成果をあげたといえる。
ATPは2008年、フェデラーやR・ナダル(スペイン)、A・ロディック(アメリカ)やマレー、ブレークら人気選手を起用した『FEEL IT』というキャンペーン(http://www.atptennis.com/1/en/2007news/feelit.asp)を世界中で展開していくという。反省を元に、次々と新しい挑戦を試みるATPの成功に期待したい。
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