ヨネックス株式会社は19日、女子テニスの東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント 2025(日本/東京、ハード、WTA500)の開催に合わせ「YONEX Tennis Festival 2025」を開催した。このイベントには同大会5度の優勝を誇る元世界ランク1位の
M・ヒンギス(スイス)も参加。日本でも絶大な人気を誇ったヒンギスにtennis365.netは単独インタビューを行った。
>>東レPPO 2025 公式HPはこちら<<19日に行われた「YONEX Tennis Festival 2025」ではテニスクリニックやエキシビションマッチなどが行われた。
ヒンギスは同イベントのエキシビションマッチに参加。女子テニスで元世界ランク4位の
伊達公子、車いすテニスで元世界ランク1位の
国枝慎吾、現在同1位の
小田凱人と4ゲーム先取のダブルスの試合を行った。
試合はヒンギスと小田のペアが伊達と国枝のペアに1ゲームも与えず4-0で勝利。それでも、4選手ともに随所で好プレーを披露し会場を沸かせていた。
同イベント後にヒンギスがインタビューに応じた。
【ヒンギスのインタビュー】
――2023年以来の来日です。
常に美しい旅ですね。もう1つの母国みたいな感じですし、毎回皆さんに歓迎してもらっています。米山ファミリー(ヨネックスの創業一家)もずっと私の一番のスポンサーですし、キャリアの中で優勝回数が最多(5回)の東レPPOという大会に携わることができ、これほど光栄なことはありません。
――東レPPOで思い出に残っている試合を教えてください。
いっぱいありすぎるけど、2002年に
M・セレス(アメリカ)に勝って優勝したのはよく覚えているし、最後に優勝した2007年もいい思い出です。決勝のあとに米山ファミリーと食事をするのが恒例になっているのですが、その場で優勝報告をするのが責任だと思っていました。私とは家族の一員のように接してくれましたから。だから、日本に来るたびに勝ちたいと思っていました。ディナーが決勝の前だったこともあったのですが、それで負けてしまったので以降は決勝後に変えました(笑)。
――オフコートでの思い出は。
これもたくさんあるけれど、ヨネックスのラケット製造工場(新潟)に連れて行ってもらったことですね。プレーヤーはラケットがなければ試合をできないけれど、どういうふうに作られているのかは知らないんです。本当にたくさんの過程を経ているので興味深いですし、どのプロも見るべきだと強く思います。実は今回の来日中にも「Blue Lab」という新しい製造拠点にお邪魔します。これまで写真だけしか見たことがなかったのですが、私から見学をリクエストしました。非常に楽しみです。
――新潟といえばお米どころですね。
知っています!ジャパニーズライスはすごく好きで、3食白米のときもあります。今朝はうどんだったけど(笑)。炊飯器も持っていますが、自分で炊くより日本で食べるほうがおいしいです。新潟だけではなく大阪、仙台、2年前は京都をはじめ、違った日本の地を訪ねるのも大好きです。
――今回のエキシビションマッチは楽しそうでした。
本当に楽しかったです。車いすテニスの男子選手のプレーにはビックリしたし、何より伊達さんと会えたのは感無量です。
――伊達さんとは1996年にニューヨークの大会で1度対戦していますよね(6-1, 6-2でヒンギスが勝利)。
彼女は常に目の前のことにフォーカスするプロ意識の高い選手です。私と同じように背の高くない選手だったので、展開も似ています。知識があり、頭を使ってプレーする聡明な選手です。非常に尊敬しています。
――どんな会話をされましたか。
マラソンをしているのは知っていたので、今でも走っているか聞きました。今はそんなに走っていないようだけど、彼女は私より10歳上です。それなのにあれだけ動けるのはビックリだし、私も彼女のようになりたいので希望もモチベーションもわいてきます。あとは当然のようにテニスの話でした(笑)。
――ヒンギスさん自身は現在、どれくらいの頻度でテニスを。
娘もいるので、週に1回のプレーですね。一緒にプレーしたりコーチとして教えています。名前はリアで6歳半。公立の学校に通っていて、図工が得意なんです。
――リアちゃんの上達ぶりは。
他の子供たちと一緒に週に2、3回プレーしています。私も育てられましたが、私の母は素晴らしいコーチです。娘にとってのおばあちゃんがコーチングしてくれていて、いいプレーヤーに育っていると思います。母には全幅の信頼を置いていますし、いろいろなプログラムを組んでくれます。テニスだけではなく自転車、スクーター、トランポリンもやらせています。
子供なので1つのことだけでは集中力が続かないし、体の動きを覚えさせる意味でも他の運動に触れるのは大切です。ただ、私はテニスから教わったことが多いし、友達とか人との接し方など人生にも役立っています。技術はもちろんですが、彼女もテニスを通じてそうなればと願っています。

――日本のジュニア育成が進み、世界で通用する選手が増えるために何かアドバイスはありますか?
1つアドバイスをするとすれば、練習を続けることに他なりません。そして、プロ入りをするときには移行をいかに成功させるかです。ジュニア時代に比べて肉体的にも精神的にも大変なので、素晴らしいチームにサポートされることが大事です。
自分がそうだったように、特に女子の場合は親御さんがどうサポートできるかにかかっていると思います。決して性差ではなく、男子選手も大変なことは多いです。ただ、私は感情的にもろいところや気持ちのアップダウンがありました。周りを見ても女性の場合、年齢を重ねてからのほうが精神的に成熟し安定感が出てきます。だからこそジュニアからプロへ移行する際は、周りの力を借りるべきです。
――ジュニア時代に意識してほしい技術は。
メンタル以上に技術は大事で、そこが母は素晴らしかったです。徹底的に教え込んでくれました。まず技術がしっかりしていればケガをしないし、パワープレーヤーと対戦しても戦術面で対応できます。自分の土台となっていると思います。具体的なテクニックはシークレット、スイスに教わりにきて(笑)。
もちろんジョークですが、母のすごいところはテニスだけではなくいろいろな運動を私にさせたことです。スキーもスイミングも乗馬もしたし、やるべきだと言われました。テニスは一方向の動きなので、どうしても片側が発達してしまいます。使わないほうの体をどう鍛え、バランスを整えるかが技術面では大切な要素になります。
N・ジョコビッチ(セルビア)が話していたように自分の体を鍛えることが上達の第一歩だし、実際に彼はストイックに行っていました。自分の体を知り尽くすことが大事だし、その体に対してフィットする技術を身につけていきながら、自分の弱いところを補完していく。その繰り返しです。
――ひたむきにテニスに取り組むということですね。
テニス特有の素晴らしさを考えると、技術面、メンタル面でやることは多いです。1ポイントを失っても次で取り返す。1試合失っても、次の大会で勝利によるポイントを重ねる。競技によっては2年に1回しか大きな大会がないこともあるのに対し、テニスは毎年グランドスラムがあります。
引きずらなければ挽回できるチャンスがあるし、だからこそ技術面、メンタル面の両立が重要なんです。それをジュニア時代から理解するためにも、周りのサポートが絶対に必要です。
例えばジュニアで素晴らしい成績を挙げてしまうと、そこで緩んでしまうことも多いです。ちょっと休んでホリデーにいってしまうと、そこで成長が止まってしまうのです。もちろん、ジュニアだけではなく大人もそうかもしれませんが、勝っても慢心せずに負けても自分をもう一歩奮い立たせる。息抜きも必要だからバランス次第ですが、自分の限界を超えていくことが大事です。
A・サバレンカ、
I・シフィオンテク(ポーランド)らトッププレーヤーも、すごくストイックで常に自分を追い込んでいました。
――近年における女子のパワーテニスをどのように見ていますか?
セレス、
L・ダベンポート(アメリカ)、
M・ピアース(フランス)…私の時代もパワープレーヤーはたくさんいたし、大きく変わったとも占拠されたとも思っていません。パワープレーヤーに対抗する選手もいます。
ただ、どういうプレーヤーになるかは本人たちの考え次第なのですが、テニス教育が型にはまっているのは心配です。1つのプレースタイルに特化し、それだけ続けているような、例えばストロングゲームならそれ一辺倒になりポイントの取り方もワンパターン化する危険があります。
繰り返しになりますが、最終的にどういうプレーヤーになるかは本人次第です。ただし、色々な戦い方を教えた方がいいし、学ぶべきとも思います。
例えば、ゲームの作り方がうまい
M・アンドレーワは、元世界ランク2位の
C・マルティネス(スペイン)をコーチにしたことで、さらに戦い方が変化し始めています。本人が新しい勝ち筋の可能性を許容し、コーチもそれを許して新しいことにトライしてみるのも必要なんじゃないかなと思います。彼女はもっと成長する気がしますね。
――他にも注目している選手はいますか?
多くの試合を見るので、1人に絞れません(笑)ただ、サバレンカは見ていて楽しいです。表現する選手ですし、テニスだけではない世界、生き方なども興味深いです。
大坂なおみにも注目しています。これからケガも回復するでしょうし、次のシーズンでどう戦うのか楽しみにしています。
――女子テニス界が発展していくポイントは。
必要なのは素晴らしいライバル関係だと思います。男子なら
R・フェデラー(スイス)、
R・ナダル(スペイン)、ジョコビッチがしのぎを削り、世界が魅了されました。そこに
J・シナー(イタリア)、
C・アルカラス(スペイン)が加わり、2025年のグランドスラム決勝も非常にハイレベルでした。素晴らしい試合が毎大会見られるのはファンも興奮しますし、女子テニス界でもライバル関係がカギを握ると思います。
――長時間ありがとうございました。ファンへのメッセージをお願いします。
私という人間を理解してくれていることに感謝します。賢く、テクニックに優れた選手と表現してくれるのは、とても私にとって誇らしいことです。また、テニスという競技に対しても本質を理解し、楽しんでいる日本のファンの姿を見ると、本当にうれしくなってきます。エキシビションも楽しんでいただけたかと思いますが、ぜひ東レPPOにも足を運んでいただき、日本の、そして世界の女子テニスを支えてもらえればありがたいです。
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