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「20歳への思いとアジアパラへの誓い」/小田凱人インタビュー・後編

小田凱人
「仕留めるテニス」の仕上げに入っていた
画像提供: tennis365.net
2026年最後のグランドスラム「全米オープン」(アメリカ/ニューヨーク、ハード)本戦が開幕した。いくつもの話題が飛び交う中、日本、そして世界で熱い注目を集めているのが、車いすテニス界の若き絶対王者・小田凱人(おだ・ときと)による「年間グランドスラム(同一年での4大大会全制覇)達成なるか」という歴史的挑戦だ。

8月10日、名古屋市内で行われた公開練習の後、小田がメディアのインタビューに応じた。全米オープンを目前に控えた王者が語った、前人未到の領域への覚悟、そして自身のプロキャリア観とは。インタビューを前編・後編にわたってお届けする。後編は「20歳の精神、偉大な先輩たちへのリスペクト、そして王者として凱旋する地元アジアパラへの誓い」。

――20歳(成人)を迎えられて約3カ月がたちましたが、ご自身のメンタリティや生活において何か変化はありましたか。
小田  自分の中では驚くほど変化がありません。実年齢の数字はまったく気にしていないですね。ただ、一つ変わったことといえば、大会で優勝した後にメンバーやスタッフたちと一緒にシャンパンを開けて楽しく喜びを分かち合えるような「選択肢」が増えたこと。これはやっぱり気持ちいいなと感じています(笑)。

――10代のうちに世界中の主要タイトルを総なめにし、誰もがうらやむキャリアを築いてきました。これからどのような20代を過ごしていきたいと考えていますか。
小田 周囲からはよく「すごく大人っぽいね」といわれるのですが、僕自身は「大人にならずに、ずっと子どものままでいたい」と思っています。なぜなら人間は大人になっていくと、どうしても守りに入ってしまったり、無意識に自分をセーブ(制限)してしまったりするから。そこは自分自身でうまくコントロールして、いつまでも子どものようなアグレッシブさや情熱を持ち、試合でも常に攻めの姿勢を貫いていきたいです。 20代の具体的な目標は、とにかくシンプルに「ひたすら勝ちまくること」。今年は年間グランドスラムを最大の目標としてすえていますが、来年以降は、さらに年間を通した「負け(マイナス)」の数を極限まで減らしていく。自分のテニスをそういう高い次元に持っていきたいです。

――将来、ご自身がどのように競技生活を終えるか(引退)について考えることはありますか。
小田 実は、しょっちゅう考えています。早く現役生活を終えて別のステージに進みたいと思う日もあれば、いや、やっぱり死ぬまでテニスをやり続けていたいなと思う日もある。毎日、自分の心の中でその感情がいったりきたりしています。 例えば、選手として完全にピークを迎えている状態でカッコよく引退して、そこからまったく異なる別の分野で大成功を収めるような生き方にも憧れます。これまでのスポーツ選手のセカンドキャリアとはまったく違う、新しい形を僕自身が作っていけたら面白いなとも思いますが、こればっかりはまだ自分でも答えが出ていません。

――世界の頂点で常にしのぎを削り、ライバル関係にあるA・ヒューエット(イギリス)(イギリス)選手。対戦成績は非常に拮抗していますが、ご自身が彼に敗れるときはどのような原因があると考えていますか。
小田 完全に「気持ち(メンタル)の問題」ですね。テニスの技術や実力において、彼に負けることは絶対にないといいきれます。敗れるときは、自分の中に「このくらいのプレーをしていれば大丈夫だろう」という慢心や、甘さ、気持ちの緩みが出たときだけです。

――以前「毎年3月・4月の期間にパフォーマンスの維持が難しい」とおっしゃっていましたが、その理由は何でしょうか。
小田 5月の全仏オープンが始まる前の3〜4月は、大きな大会がない期間が最も長く続くため、目標をきっちりと維持してモチベーションを高めていくのが非常に難しいんです。自分の中で気持ちを盛り上げにくいのが課題ですね。個人的には、毎月のように何かモチベーションとなる大きな大会があるスケジュールのほうが、メンタルを高く保ちやすいのかもしれません。

――現在、専任コーチのいない期間を経験されていますが、技術や戦術面におけるアドバイスの吸収や、気づきを得るタイミングはどのように変化しましたか。
小田 福岡での大会の後に、指導や練習メニューの管理を信頼できる「パートナー」に全面的に任せて丸投げしてみたのですが、それが非常にうまくいきました。今は単なる球出しなどのヒッティングパートナーという関係を超えて、実質的に「本当のコーチ」のような強固な信頼関係を築けており、とても順調にトレーニングができています。

――今年の国内大会「木下オープン」では、車いすテニス部門の開催が見送られることになりました。小田選手はこれをどのように受け止めていますか。
小田 何とか開催できないかと、僕なりに一生懸命交渉して頑張ったのですが、どうしても決定を覆すことができませんでした。誰が悪いわけでもないのですが、フランスの大会(リベラ)と木下オープンのスケジュールが完全にかぶってしまったことが原因です。 世界ランキングを維持するためにはフランスの大会に出るのがセオリーですが、僕はリベラに行くつもりはありませんでした。たとえ日本での大会のグレードが低く、出場によってランキングが2位に落ちるリスクがあったとしても、僕は日本のファンの前で、木下オープンでプレーすることを選びたかった。関係各所に粘り強く交渉しましたが、やはり厳しかったです。 ただ、国際テニス連盟(ITF)の担当者の方々には、ぜひ一度日本に来て、日本の車いすテニスの熱気や現地の盛り上がりをその目で見てほしい。あの熱さを一度でも肌で感じてもらえれば、日本で大会をやらないのは「やばい(絶対に開催すべきだ)」となるはずです。

――その木下オープンには、今年での現役引退を予定しているテニス界のレジェンド・錦織圭選手が出場予定です。錦織選手に対しては、どのような印象を持っていますか。
小田 僕がテニスというスポーツを本格的に始める前から、テレビなどでずっと背中を見ていた、まさに「テニスといえばこの人」という絶対的な憧れの存在です。 世界トップの座に君臨し続け、いざラリーに入った瞬間に、パッと人が変わるような卓越したひらめきとプレースタイルは、本当に素晴らしいのひと言です。実際にお話しさせていただくと、普段は独特の緩くてやさしいオーラをまとっていらっしゃるのですが、その裏にはアスリートとしてのすさまじいオーラを感じます。そんな偉大な錦織選手がコートを去るのを見て、ここ数年でテニス界が本格的な「世代交代」の時期に入ってきたのだなということを、強く実感しています。

――錦織選手との個人的な接点やエピソードはありますか。
小田: テニスイベントなど公の場での接点はこれまでもありましたし、会場でお会いすればごあいさつや少しお話をさせていただきます。ただ、プライベートや2人きりでじっくりと深くお話ししたことはまだないので、いつかそういう機会があればうれしいですね。

――10月には、ご自身の地元である名古屋で「アジアパラ競技大会」が開催されます。4大大会であるグランドスラムとアジアパラでは、戦ううえでの心境や「勝つことの重み」にどのような違いがありますか。
小田 アジアパラは、僕にとって「チャンピオン(世界一の王者)として帰ってきて、試合をする場所」です。僕の地元のアジアでの開催ですし、絶対に負けられないというプライドがあります。できれば全米オープンを制して、「すべてのグランドスラムを制覇した絶対王者」として、地元に凱旋するような感覚でコートに立ちたいです。 常に挑戦者としてどん欲に挑み続ける「グランドスラム」と、世界ナンバーワン、すなわち1位の王者として他を圧倒するために挑む「アジアパラ」。僕の中でこの二つの大会には、まったく異なるモチベーションと感覚があります。

――改めて、地元のアジアパラ競技大会に向けた強い意気込みを聞かせてください。
小田 名古屋という僕を育ててくれた地域が一体となって開催する大会であり、最も身近にいる家族や友人、これまで支えてくださった多くの関係者の皆さんに、自分のプロとしてのプレーを間近で見てもらえるめったにないチャンスです。自分の存在を最大限にアピールしたいですし、他のどの大会とも違う、特別な感情が湧いています。 僕にとってパラリンピックやアジアパラのような大舞台は、「自分らしさ」を世界に発信する最大のチャンスです。だからこそ、テレビをはじめメディアでもっと大きく放送してほしいと強く願っています。僕は10代のころ、東京パラリンピックの舞台に立てなかったという大きな悔しさを味わいました。その悔しさを原動力に、これからは僕自身が圧倒的なパフォーマンスを見せることで、世間の注目を集め、現状を変えていきたいと思っています。「放送するに値する、目を離せない試合」を僕がコートで見せ続けることで、車いすテニスを始める子どもたちを増やし、この競技をもっともっと大きく、メジャーにしていきたいです。

――ファンの皆さんに向けて、生で観戦してもらうことの価値をどう伝えますか。
小田 本当にありがたいことに、すでにチケットもすごく売れているようでうれしく思っています。テレビなどの画面越しではなく、ぜひ実際のコートに来て、僕たちのスピード感や激しさを生で観て、体感してほしいです。名古屋で僕のプレーをこれだけ身近に生観戦できる機会は、次はいつになるか分かりません。ぜひ、この貴重なチャンスに会場へ足を運んで、熱い声援を送っていただきたいです。


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