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「勝ったよ!本当に強かった!」
車いすテニスのフレンチオープン、この3日に行われた決勝で日本のエース斉田悟司が世界No.1のマイケル・ジェレミアスと激突した。
コート脇から斎田を応援していた国枝慎吾(日本)はゲームごとにその熱戦の模様をコーチである丸山弘道にメールで伝えてきた。そして、最後は「勝ったよ!本当に強かった!」の電話連絡。斉田はジェレミアスを6-2, 6-3のストレートで下し、今季初優勝を飾った。国枝は斉田の強さを自分のことのように心から喜んでいた。
「あとは本人からの連絡を待つからさ。慎吾ありがとう。」と、丸山は興奮する国枝との電話を切って、斉田からの連絡を待った。
それから約40分後、表彰式を終えた斉田から連絡が入った。
「コーチ!おかげさまで優勝できました。色々ご心配おかけいたしました。」これが優勝した斉田からの第一声だった。「本当に謙虚な奴だな。」丸山は斉田の言葉に胸がいっぱいになった。
ここのところ、調子もいいのにあと一歩で優勝を逃している。勝ちたくてどうしようもない、という思いのあまりに、かえって満足の行くパフォーマンスができない。そんな状況が続いていた。
今回の大会期間中は、二人はいつも以上に電話で密に連絡を取り合った。
「練習は本当に良い。でも試合では・・・」先週のチェコ大会でも同様だった。国枝が目の前で優勝し、自分はベスト8という不甲斐ない結果に終わっている。国枝と組んだダブルスでも、相手にかき回され準優勝に終わっている。「ひょっとして試合をするのが怖いのか?」と丸山には不安が募り始めた。
「あまり複雑に考えず、シンプルを目指せ。それと、テニスは「戦い」でなく、「プレー」をするもので、全力でプレーをすれば恐れるものは何もないんだ。」と、丸山はいつになく強く斉田に言い伝えた。それに対し、斉田は「僕はチャレンジャーです。思いっきりやるだけです。」とはっきりとした口調で答えた。
長年一人で日本の期待を背負い、世界トップクラスのチャンピオンとしての誇りがある斉田だが、テニス界の系図の変化にも敏感だ。若手が次々と伸びてきており、同世代の元世界ナンバー1のデビット・ホールが引退する中で、彼が出した答えは、「もう一度チャレンジャーになる」ということであった。これは長年つきあってきた丸山も初めて聴いた言葉だった。
今年で現役を引退するA・アガシも一時はスランプのどん底に陥ったが、そこから「チャレンジャー」として大復活を遂げた。斉田は、ランキングこそまだNo.4と名実ともにトップ選手だが、気持ちは振り出しから再出発だと自分に言い聞かせていた。
「今大会で、悟司はテニスの醍醐味を人とは違う視点で見れたのではないかと感じている。」と、丸山コーチも斉田の更なる成長に改めて感心している。「おめでとう!心からおめでとう。」それ以上の言葉は必要なかった。
先週のチェコでの大会でも優勝し、世界ランキングこそ斉田を超え、遂にNo.2に浮上した国枝だが、先輩に対する深い尊敬と強い絆とは他に類をみない。苦いも甘いも知り尽くしている真の日本ナンバー1、斉田悟司の域に達するには、国枝でさえまだ長い道のりがある。そしてこの男、斉田には「限界」という言葉はまだまだ無縁なのだ。
二人は今大会でダブルスペアを組み、見事優勝を遂げている。
今週はウインブルドンでのダブルスに出場する。そこでも「最高の戦い」ではなく、「最高のプレー」を、一緒に世界の人々に披露してもらいたい。
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