JUSTINE HENIN |
Vol.1 男性的な組み立てを可能にする攻守ともに強い片手バック |
欠点がなく全体的な質の高さは女子NO.1の片手バック |
エナンも、フェデラーと同様に(スライスも含めて)オールラウンドなバックハンドを持っている選手であり、攻めも守りも良く、欠点がなく、全体的な質の高さは、間違いなく女子No.1だ。
フェデラーとの違いは、グリップがバックハンド・ウェスタンと言えるほど厚いことで、打点がかなり前になり、インパクトではこぶしを突き出してボールに当てていくような感覚になる。こうするとラケットの支えが強くなり、腕力がそれほど強くない人でも強打しやすくなるのだ。エナンは女子としては腕力が強いほうだが、攻撃的に打つためには、やはりグリップが厚いほうが有利だ。
また、テイクバックがコンパクトなことも、彼女の特徴のひとつで、身体の回転を非常にうまく生かしているため(連続写真参照)、それでも十分なスピードを得ている。
一般的には、厚いグリップの片手打ちは、速いボールに弱い(打点が遅れやすい)という傾向があるが、エナンの場合は、十分にテイクバックする時間がなくても(あまり肩が入っていなくても)、しっかり力が伝えられるので、速いボールもほとんど苦にしない。 |
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エナンの横から見た片手打ちバックハンド
1~5では体重を右足に移しながら腰がグッと前に回っているが、それ以降は見事に下半身が固定され、身体も前にズレていない。スウィングはかなり大きく、上体もそれに引っぱられて多少開いているが、非常に安定した土台がそれを支えているのだ。グリップはかなり厚く、打点も前になるが、面を返すことなく、しっかり押し出しており、速いボールにも負けない力強さも備えている。
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スライスの質が高く、攻められてもすぐにイーブンに戻せる |
また、対戦相手がボールを高くバウンドさせても、横に走らせて追いこんでも、スライスでうまく処理してくる。とくに走らされたときにクリアするスライスのクオリティが高く、不利な状況を一発で五分に戻すことができるので、相手は攻撃を継続することができない。さらに、スライス感覚に優れているため、ドロップショットもうまい。 相手にしてみれば、どう攻めれば良いのかという攻略法を見つけられないうちに、主導権を握られてしまうという非常に戦いにくい選手だ。
そうした技術によって、スライスでもわざとサイドスピンを与えたり、深く滑らせたり、浅く落としたりと変化をつけられるし、トップスピンでも自由に回転量を変えられる。また、オープンスタンスでもクローズドスタンスでも打てるので、どんなサーフェスにも対応でき、まさに万能だ。
そうした多彩なバックが、相手の返球を甘くさせ、フォアで叩いてエースも取れるし、ネットに出てボレーでも決められるというオールラウンドなプレイのベースになっているのだ。 |
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エナンの遠いボールに対するバックハンド・スライス
こちらは、大きく走らされてスライスでしか返せない状況になった場面だが、動いて打ちながらも腰の高さが非常に安定しており、上体の軸もよく保たれて、上半身だけ見ればまったく無理のないスウィングができている。面の動きも安定し、深く伸びるボールが返っているはずで、こうした質の高いスライスが、エナンの守りの強さを支えている。
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(テニスジャーナル 2004年7月号) © SKI Journal Publisher Inc.
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ジュスティーヌ・エナン研究編 一覧
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