第95回 日本選手の全豪オープンを振り返って その2
クルム伊達選手は、まだまだこの舞台でできることを証明しました
去年、全仏オープンが終わった頃から、早い展開のテニス、一歩前に入ってタイミングを早くしていくことを課題に練習し、試合をしているのですが、それが形になってきたと感じます。 1回戦のタチシュビリ戦は、最初、後ろで打ち合っているうちはポイントが取れていなかったのですが、気づいて一歩中に入っていきました。こうして試合の中で作戦を変える、気づけるということが、彼女にとってとても大きなことです。もともとハードヒットができる選手ですが、タイミングを早くしたことで、ポイントを取りきるということができていると感じました。 3回戦はセレナ・ウィリアムズ選手との対戦でした。試合後に森田選手から話を聞くことができたのですが、「真ん中で打ち合っているときには全然、パワーで押されなかった」と話していました。「ただ、自分が振ったときに、切り返しで『こんなところに来るんだ、というところにボールが来る』と。 第2セットは3-0とリード。このままいけばチャンスがあるなという、力強い展開でした。あの大舞台で、勢いのあるセレナに対してあれだけの内容の試合ができたことは自信になったと思いますし、ひとつのステップになったと思います。 土居美咲選手は全豪では初めて本戦にストレートイン。去年の終盤にしっかりポイントが取れて、トップ100に入れたことが大きかったと思います。 彼女が最も成長したのは精神的な部分です。ポイントの切り替え、例えば嫌な取られた方をしたときの次のゲーム、次のポイントでの気持ちの切り替えが上手になったと思います。練習中のメンタルの持ち方が試合に出るというのも分かってきて、いい練習、質の高い練習ができていると思います。 1回戦はマルティッチ選手との対戦でしたが、作戦を立てて、自分のやるべきことをしっかりやりきりました。得意のフォアハンドを生かしてポイントを取っていくのが彼女のテニスですが、ただ打っていくのではなく、相手のイヤなところにループやアングルショットも織り交ぜて展開しました。 2回戦はシャラポワ戦。彼女にとって、これだけ大きな舞台で、シャラポワのようなトップの選手と対戦するのは初めてのことでした。6-0、6-0という残念な結果でしたが、この経験は本当に大きいと思います。 土居選手自身、「こんなにすごいんだなと体感できた」と言っていました。とにかく攻撃が早かった、と。これに対応するにはサーブ、リターン、すべてのショットのクオリティを上げていかなくてはいけないと肌で感じられたのは大きかったと思います。 この舞台で戦えるようになった、そして、これからその常連になるんだという気持ちも今回、強く持ったと思います。その意味で今大会は、シーズンのいいスタートが切れたと思います。 クルム伊達公子選手に関しては、今大会、目立ったのはフィジカルですね。大会前にも「どこも痛いところがない。こんなにコンディションがいいのは久しぶり」と話していました。あの早い展開ができるのも、ライジングの早いタイミングで捕らえることができるのも、動きの良さがあるからこそで、フィジカルの土台があって初めて伊達さんのテニスが光るのです。 1回戦のペトロワ戦では、対策も立てて、それが100%できたと思います。これ以上ないというくらい完璧な戦い方でした。エラーも少なく、それも相手のプレッシャーになっていました。その上、あの早い展開。ダウンザラインへ先に攻撃してオープンコートを作り、ネットプレーでもポイントを取るという、得意のパターンに持ち込んでいました。 2回戦のペール戦は、相手も相当、研究してきていて、弾道の高いボールを交ぜて、伊達選手の好きな低い打点ではなく、高いところで打たせようとしていましたが、伊達選手はそういうボールへの対応力もありました。 最後は相手に流れが行きかけたところをグッと引き寄せました。さすがだなと思うのは、3-0から3-4とされて嫌な空気が流れたのですが、切り返しのスーパーショットから流れを変えたところです。その直後の「カモーン!」。この声で、相手の元気をなくさせてしまう、逆に自分は気持ちが乗っていく、そういう駆け引きもすごく上手だなと感じました。 3回戦のヨバノフスキ戦。残念ながら、試合開始が遅い時間になって、気温20と涼しく、風も吹いて、タフなコンディションになってしまいました。第1セットは相手のスピードになかなかついていけず、反応も少し遅かったのかなと感じました。 ただ、さすが伊達さんと思ったのは、第2セットですぐに対応していくところです。ヨバノフスキ選手は一直線のフラット系のボールが好きですから、スライスを交ぜたり、ショートボールを入れて前後の揺さぶりをかけたりと、変化のあるプレーで相手のミスを誘いました。このセットを取ったらいけるのではないかと思わせる場面もあったのですが、ヨバノフスキ選手も最後はラケットを振り切りました。ミスが増えていましたが、気持ちを切り替えたところは立派でしたね。 こういう勢いのある若い選手に--なにしろ伊達さんの半分の年齢です。そこに立っているだけでも素晴らしいことだと思うのですが--互角以上の戦いをしたということは、今シーズンを占う意味でも大きかったし、ご本人も自信を得たと思います。 昨年はグランドスラムでなかなか結果が出ませんでしたが、この舞台でもまだまだできる、というのを多くの人に知らせることができたのも、伊達選手にとって大きかったと思います。
|
© 2011 Fubic Corporation. All Rights Reserved.